7 眩しい
その背中が、眩しく映るようになったのはいつからだったのか、もう覚えていない。
冬休みが終わり、始業式を迎えた学校では、もちろん宿題の提出があるのだが、出来はともかく、全て初日に提出し終えた私は、鞄を手に意気揚々部室へ足を向ける。
部室の前には先客、早々に着替えを終えてウォーミングアップをしている水野と風祭の姿。通りすがると、二人の会話が聞こえた。
「じゃあシゲは居残りさせられてんのか」「うん。今日練習、来れないかもしれないね」
……まったく、あの馬鹿。どうせ宿題なんてさっぱり手を付けていなかったのでしょう。
新体操部の部室に入って着替えようとしてから、体操着の入った袋を教室に置いたままなのに気付いた。
……馬鹿は私も、だわね。
仕方がないので取りに戻る。なんという無駄な時間。乱暴に歩いていた私は、2-A前の廊下で立ち止まった。
教室の中で、机に突っ伏している、金色の頭。宿題をやるうちに眠り込んでしまったようで、手はシャープペンを握ったままだ。学ランを着た黒い背中は、呼吸に合わせて規則的に上下している。
彼をゆっくり見ていられるのは、彼が振り返ることはないと確信できる時だけだ。嫌っていると思われるのは平気なのに、私が彼を見ていると気付かれるのはとても癪に障る。私が彼を、眩しいと思っているなんて、見抜かれるのは絶対に嫌だ。
そう、いつからだろう。見かけるたびにイラついていたはずのその背中が、眩しく映るようになったのは。
避け合ったままで終わらせるつもりはないのに、一歩を踏み出せない。踏み出せば、見抜かれてしまう位、気持ちが膨らんでしまっている気がして。
冬の太陽は低く軌道を描き、すぐに沈む。練習時間は限られている。 それでもこの場を離れがたくて、私は息をひそめたまま立ちつくした。
|