新年だ。みんなで初詣、なんてすごいことを考えるものだ。発案者に拍手。ただし、嫌み交じりに。
晴れ渡った空へ
「寒いわね」「冬ですから」 隣に並んで歩く後輩の桜井みゆきが、白い息を吐きながらもはずんだ声で答える。愛しの先輩と一緒に初詣ができる……とはいっても、肝心の相手は男連中と楽しそうにしているのだが、それを見ていられるだけでうれしいらしい。
この少女は、かわいらしい、と思う。好きな相手もわかりやすければ、態度もわかりやすい。たぶん、彼にしてみれば、格好のからかい対象。
「はあ」 ため息をつく。
「どうしたんですか、新年早々、幸せ逃げちゃいますよ」 耳ざとくとがめられて、私は腕時計を見る。 「まだ年内よ」 示してみせると、覗き込んだみゆきは、えっと声をあげて、ポケットから自分の時計を取り出す。 「もう新年ですよう」 ほら、と差し出された彼女の時計を見れば、0時5分を差していた。
もう一度、自分の左手首を確認する。 「……止まってるわ。電池切れね」 大きくため息をついた。 「先輩ってば」 みゆきはころころ笑った。 「妙なところ抜けてるんですから。普段は結構格好いいのに」 「そう?」 「はい。背高いし、美人だし、言いたいことばしばし言えるじゃないですか」 「……そう?」
「わたし、引っ込み思案だから、羨ましくて。先輩のはきはきした所」「私のは、遠慮がないってゆうんですのよ」 みゆきはくりっとした目でこちらを見、首を傾げた。
私は、視線の端で、前を歩く彼の背中を捕らえる。
言いたいことを言ったからこそ、避けられているのだ。 あの日、廊下での会話。あれから、彼がからかい混じりに声をかけてくることはなくなった。普通の関係ではない。誰にでも平等に軽薄、それが彼なのだから。なんとも思わないようにすると言った手前、私も自分から突っかかってゆくことはなくなった。
あなたが嫌いだと、私は言った。好きと嫌いは紙一重と、彼は言った。
お互いに何らかの感情を抱いていることはわかっていて、だからこそ、無視しあっている。
いわば冷戦状態。
「はあ……」 「もう、先輩ってば」 だめですよ、ため息ついちゃぁ、と背を叩かれた。 「ほら、神社に着きましたよ。お願いしましょう」 「あなたのお願いは、決まってるわよね」 視線で少女の意中の相手を示してやると、真っ赤になって違いますと否定する。
「じゃあ何よ」 「耳貸してください」 私はすこしかがんで、少女の高さにあわせた。
――風祭先輩が、選抜でがんばれますように、です
「あなたらしい」 上体を元に戻しながら、笑って言った。自分ではなく、相手の望みが叶うことを願うなんて。
「私、誰かのための願いなんて考えたこともなかったわ」 「そうでしょうねぇ」 頷くみゆきをひと睨みする。「ちょっと、どういう意味よそれ」 「いえいえその、悪い意味じゃなく」 みゆきはあわてて両手をぶんぶん振った。
「先輩なら、直接がんばれって言うとか、叶うように自分で何かするとか、とにかく行動派っていうか、遠くから見てるだけなんてらしくないっていうか、あのあの」 「わかった。わかったから」 肩を叩き、落ち着けと言い聞かせる。
まだまごついた顔をしているみゆきに、私は苦笑いしながらため息をついた。
「そうかもしれないわ」 相手の願いが叶うように願うのも、黙って待つのも、らしくない。「そうね。そうだった。忘れてましたわ」
冷戦状態のまま、だまって時間をやり過ごすのも。
私は空を見上げる。雲ひとつない。あるのは満天の星。
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