3 水滴
突然の土砂降りに、もちろん野外練習は中止で、校舎のなかでランニングと筋トレを済ませれば、今日はもう解散だ。着替えのために部室へいこうにも、傘がない。
雨が窓を打つ。
「もう、今日もフットサル行きたかったのに、これじゃあね」
私の目標である少女が、教室から窓の外を見やりながら、ため息混じりに言った。
「さすが、サッカー命娘の言うことは違いますわね。せっかく時間があるんだから、お肌のお手入れでもしたら」
「えー嫌よ面倒くさい」
「貴方だって一応女でしょう」
そりゃあ、そうだけど、と少女はむくれる。私は昨日の少女の台詞を思い出した。
ごく軽い気持ちで問うたのだ。あなた、高校はどうするつもり? と。
『あたし、サッカーと生きてくの』
そう堂々と言った目標である少女は、まっすぐで、本気だった。
顔で負けているとは思わない。スタイルだって、私の方が上だ。
なのにどうして、この少女はこんなに綺麗に見えるのか。
「ねえ、あれ、シゲじゃないの」 少女が指差さすその先には、傘も差さずに土砂降りの中を全力疾走する少年がひとり。金髪なんてこの中学には一人きりなのだから、見紛うはずがない。 「バカね、こんな雨の中帰る気?」 その姿は、やがて校門へと消えた。
「……そういえば、今日は金曜だったわね」 呟く。
まっしぐらに進むその先に何があるのか、私はうすうす気付いている。彼が、絶対に誰にも気付かれたくないと思っていることにも、気付いている。
「……あんたなんか、綺麗だなんて思ってやらないわよ」
あいかわらず誰にも本音は見せないで、むしろ前より一層覆い隠して。潔いなんて、間違ってもいえないのに、なのに綺麗だなんて。
「何ぶつぶつ言ってるの、麻衣子」「私、部室にいきますわ。雨止みそうにないもの」「え、ちょっと、濡れるって」
止める少女の声を振り切って、教室を出る。
どんなに追いつこうとしても、少しずつ上達していても、目標だって立ち止まりはしないのだ、どんどん先に行く。差は縮まらない。
それでも、負けたくはない。諦めたくはない。
ーー諦めない。
私は靴を履き替え、土砂降りの雨の中に勢いよく身を躍らせた。
体を濡らす水滴は、なぜか心地よかった。
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