2 体温上昇
今日は晴れ。夏の盛りに、利き腕に包帯・三角巾なんてまったく、冗談じゃない。暑いだけだ。
「女子部は張り切っとんな」
夏休みの練習日、珍しく集合時間前に来てみると、グラウンドでは既に女子部の4人がボールを蹴っていた。
立っているだけで暑いのだから、走り回っている彼女らは相当だろう。誰もが、シャツを汗で張り付かせている。というわけで、まあ、うっすらと背中に横線が写って見えるのだが。
「……おお、いい眺め」
ぼそっと呟いたとたん、後頭部に衝撃をうけて前にのめった。
「うわっとっと、誰やコラ」かろうじて踏みとどまり振り返れば、仁王立ちをしているトレーニングウエアの少女がひとり。
「邪な目でチームメイトを見ないでくださる?」
「なにゆうとるねん、応援しとっただけやんか」わざとらしく後頭部をさすりながらごまかすと、少女はふん、と鼻をならしてフィールドへと歩き出した。
一つに括られた髪が、少女の背中で左右に揺れる。
暑くはないのだろうか。
あんなに長くて、黒くて。
真っ直ぐに歩みを進めていた少女は、何を思ったのか途中で立ち止まり、振り返った。
「あなた、はやく腕治しなさいよ」
「都大会も終わってもうたし、ゆっくり治せの間違いちゃう」
「早く治しなさい。治したいんでしょう」少女は、また仁王立ちになった。
「決めたんでしょう、本気になるって」「へえ、なんでそんなこと」「目が違う」
にこりともしない少女と、数秒、見つめあう。
少女はまた、ふん、と鼻をならして踵を返し、フィールドへ走ってゆく。
ゆらゆら揺れる、その黒い髪。
「……やっばいわぁ」たったの数秒、なのにその間、いつもの顔を作れていたか自信がない。「女のカン、ちゅーやつかいな」
本気になる。 そう決めたのは確かで、けれど怪我で足留めを食っていて。
一日でも早く、一時間でも早く、治したいのも確かで、けれど隠せていたはずだった。
「ああくそ、暑っちい」
本気になった。 なのに、利き手に巻かれた布が、熱を逃がさない。
行き場もなく、溜まり続ける。
少女は髪を揺らしながら、フィールドを駆け回る。
少女もああやって、熱を体に留めようとしているのだろうか。
太陽から熱を吸収して。逃がさないように。目標に挑み続けられるだけの熱を。
ゴールポストのネットが揺れる。 シュートを決めた少女は、こっちを向いて笑った。
うらやましいかとでも言うように。
俺の熱を、煽るように。
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