1 ビーアンビシャス
勉強するのが嫌いなわけじゃない。
机に向かう時間がゼロなのでもない。
成績が悪いのは、だから断じてサボっているせいではない。
あいつとは違う。
今日も今日とて教科書を開く。
頭は残らないのだろうけど、それでも開く。
英文を口に出して読む。ぼーいずびー、あんびしゃす。
なんでBoysなのよ。Boysってことは、Girlは入らないってことじゃない。
麻衣子は目標を持っていた。それを大志といえるかはわからないけれど、少なくとも達成の困難
さにかけては、大志といってさしつかえない。
いいじゃない、少女が大志を抱いたって。ビーアンビシャス。大志を抱け。それでだけでいいじ
ゃないのよ。
教科書のBoysに二重線を引く。 訳語の少年にも引こうとして、ためらった。
"Be ambitious."
麻衣子がそう言ってやりたい人物は、正しく少年だ。背は高いし、世慣れしてるし、女扱いも長け
ているけれど、それでも少年の域だ。
「Boys be ambitious.」
もう一度、口に出して読む。
いいかげんにしなさいよ佐藤、望めば手は届くくせに。本気になれば、どこまでだっていけるく
せに。
……やっぱり、Boysか。言いたくとも言えない、そんな自分にため息をつきながら、引かれた二
重線を消した。
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