10 新発見
さて、バレンタインである。
正確にはバレンタインは昨日だったのだが、日曜で休みだったために一日遅れでチョコレートが飛び交うことと相成ったわけだ。日ごろ振りまいておいた愛想の賜物、たっぷり手に入れた俺が最後に貰うことになった一品は女子部合同手作りの完全無欠に義理なチョコだった。
「おうおう、こいつぁ男子部全員でホワイトデーになんか返せゆーことなんかなタツボン」
小さなそれをひょいひょいと投げ上げつつ、必死で頬が緩むのを押さえているらしい隣の青春小僧に言う。
一体、彼に何があったのか。
水野が小島から受け取ったのは俺と全く包みである。風祭とはリボンの色が違うが。
義理だからね、と俺も風祭も彼と同じことを言われて渡された。
……よくわからんけど、聞くだけ野暮か。
「おーいタツボン、聞いとる?」「聞いてる。金出し合ってなんか買うか」「作った方安上がりやん。どうせ食いモンやろ? クッキーとか」「気色悪いだろ男に手作り貰っても」「結構喜んでくれるで」「……お前、あんだけ貰っておいて、全部手作りで返してるのか?」
義理堅い俺は、「そうやで」と頷く。貰った相手にはお返しが当然。金はかけないが。
「タツボンはどーせ誰にも返さんのやろ」
「……女子部以外は」
「女子部ねえ」 女子部限定一名の間違いだろうと、笑ったら睨まれた。はいはい怖い怖い。
そういや俺も返さなならん女子部員、一人おったな。
彼女に貰ったのは甘いチョコレートではない。時期だって早すぎた。それでも『バレンタインのプレゼントやな』とかわしたからには、彼女にだけ返さないわけにはいくまい。
そんなことしたら逆に意識しとるみたいやもんな、ひとりだけ。
逃げ切れるだろうか。一歩一歩、追い詰められている気がして、俺は反撃に出ることにした。
「ホワイトデーのお返し、希望なんかあらへん?」
練習後、彼女にそう声を掛ける。
「ずいぶん律儀ね。そんなの部長の有希に聞いたら?」 彼女はにこりともせずに答える。
「ちゃうって。部のやない。個人的なほう」
二人きりではない。何人ものチームメイトの目があって、その視線は彼女に集まる。視線の意味を翻訳するならば、え、上条さんてシゲさんにチョコあげてたの? である。
もちろん、そう取られるようわざと言った。
さて、どう出るか。
彼女はそうと分らないほど短く沈黙した後、「何もあげてないのに、お返しはおかしいんじゃない?」右手を腰に当てながら質問を返してくる。
知らんぷり。そうきたか。
「くれたやん。まあ、チョコやあらへんかったけど」粘る。
「そうだったかしら? 他の娘と間違えてるんじゃなくて?」「間違えるわけないやん。あんなん貰ぅたん初めてやもん」
色めくチームメイトたちに頓着した様子もなく、彼女は、ああ思い出した、とばかりに微笑む。
「もしかして、使いかけの制汗剤のことかしら?」
あっさり言われて、俺は拍子抜けした。
彼女が俺に突っかかってきた経緯を考えれば、やきもちを焼いていると勘違いされかねないあの状況を考えれば、そう簡単にバラせないだろうと踏んでいた。彼女の焦る顔が見られると思っていたのに。
とっさに反応できなかった。
彼女は更に続ける。
「匂いが気に入らなくて捨てたんでしたわ。あなたの目の前で。何、わざわざ拾ったの?」
非常に堂々と、かつ居丈高に言う。ぶっ、とふきだすチームメイト約二名。「おいおいシゲ、そりゃないだろ」「なんつーか、変態ぽいっ痛ぇ!」
むかついたんで軽くどついてみた。
彼女はその隙に歩き出す。
至近距離ですれ違う。
俺はその横顔に魅入った。
いつもの表情、いつもの口調、高飛車な態度のまま。
彼女がこんなに鮮やかに嘘をつけるとは、まさか思っていなかった。
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