#10-3 誕生日勝負、決着
「家まで送るわ」
電話での会話よりは幾分和やかな時間を過ごすことに成功したシゲは、隣に並んで歩く彼女にそう申し出た。 「いらないわよ。どうせ電車ですもの」 「そうやけど」 手近な駅に出る。 一度や二度デートをしたぐらいで勝負に決着がつくと思っているわけではないが。 「もうちょっと、積極的になってみいへん? お嬢」 彼女は口の端だけ上げる、意地の悪い、とも取れる笑みを見せた。 「今日、誕生日だったんでしょう。あなた」 今日は7月8日。シゲも晴れて24歳である。いや、別に24になったからって、何があるわけでもないが。 「さあて、なんのことやったかなっと」 とぼけてみせる。 「どうして言わなかったの?」 「お嬢が知っとるか、試してみたかったんや」 反応は上々。こうして、彼女の方から言い出させることができた。にやり笑ったシゲを見て、彼女は首を振りつつため息をついた。 「あなただって私の誕生日知っているでしょう? イベント事はいいチャンスだものね」 上目遣いに、彼女はシゲの目を覗いた。 「勝負ですもの。私があなたの誕生日を調べておかないと、本当に思ったの?」 「……お嬢、ほんまに俺に勝つ気あるん? 俺の誕生日なんて、もし勝負やなかったらぜんっぜん興味ないっても聞こえるで、今の発言」 どこまでも甘くならない。 「だって、キャラ変えたらさぶいぼ立つんでしょ? 私は、今からやってもいいけれどね? 恋人ごっこで誕生祝い」 彼女はシゲの手を取ると、今日会ったときのように指を絡め、にっこり笑う。
恋人ごっこって、今日のさぶいぼもんのアレ? シゲのどんな表情を目にしたのか、彼女は絡めた指を解き、笑みをひっこめた。 「なら、折れてあげるのが、大人の態度ってものよね」 さりげなく優位性をアピールする彼女。 そんなこんなで、改札に着いてしまった。 「ではごきげんよう」 彼女はさっさと改札を抜け、振り返りもしない。 颯爽とした背中をみつめつつ、シゲは呟く。 「……やっぱプレゼントはなしか」
今日誕生日やねん。何かプレゼントくれへん? 言ったら負けな気がした。言わなくても負けだった。
落ち込んでいる自分に気づく。密かに期待してしまっていたらしい。
シゲは、誕生日だというのに敗北感を噛み締めながら、単身京都へ帰ることになったのだった。
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