#10-1 誕生日勝負1
「ほんじゃまあ明日。一分でも遅刻しよったら一日中遅刻魔って呼んだるから覚悟しとき」 『あらそちらこそ。遅れてきた11番って一日中呼んで差し上げますわ。覚悟なさって』 「なんか格好ええな。遅れてきた11番、て。切り札みたいやんか。ほんなら遅れて行こか」 『まあ、どう取って頂いても構いませんけれど、少なくとも会社員としては失格ですわね。あら、忘れてましたわ。あなたは引退後生活の保証のないサッカー選手ですものね、11番さん』 「おいおい、サッカー選手も遅刻は厳禁やってお嬢」 『あらそうでしたの。じゃあ、せいぜい時間をお守りになったら? 引退後はフリーターかもしれない11番さん』 「……もおつっこむ気にもならんわ。ほな明日」
シゲは電話を切り、ため息をついた。
シゲの所属するチームの本拠地は京都であり、当然シゲの居住地も京都だ。 上条麻衣子が住むのは東京。それでも最近すっかり発達した交通網を駆使すればたかだか数時間という距離だが、明日、シゲと彼女が再び会うのはスタジアムで劇的に再会してから実に二ヶ月半ぶりだ。 車での負けにもめげず、シゲがオフに合わせて東京へ会いにゆこうとしても、彼女は忙しいの一点張りだった。 今年の春大学を卒業し、今は専門学校に通っているらしい彼女は、なぜ忙しいのか明かそうとしない。ただ単に焦らしているだけかとも思ったが、だとすればしびれを切らすのも負けているようだとシゲは詳しくは聞かなかった。 ようやくデートの約束を取り付けるまで、やりとりは電話のみ。夜十時頃にほぼ毎日、といえば熱烈遠距離カップルだが、会話内容は絶対零度、恋とか愛とかいう概念からはほど遠い。 いや、試みてはいるのだ。けれど彼女が応じない。毒舌は実際に相対している時よりも切れ味抜群、シゲの返しも自然ときつくなる。いつしかシゲは、諦めた。 結果としての、冒頭、傍から聞いたら相手は親の敵かと勘違いされそうな、刺々しい皮肉の応酬であるのだが、二ヶ月も続ければ慣れる。 つまり、シゲと彼女はこれが普通。まわりが何といおうと、これが標準なのだ。
だから次の日、彼女と会って、こんな反応をしてしまったのも無理はない。
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