#7 勝負せえへん?
「控え室に呼び出したのはあなたじゃなかったんでしょう」
しばらく沈黙した後、上条麻衣子がそう口火を切った。
「私に用がある訳でもないんでしょうに、わざわざ車まで借りて送ってくださるなんて、どういう了見?」 「そら単純に下心ってもんや」 「下心? どんな」 「世間一般、男がゆう下心やろ、この場合」 「嘘おっしゃい」 照れたそぶりなんか一切なく、躊躇いなく言い切った彼女に、シゲはふっと息を漏らした。やはり見抜かれている。なんだか愉快だった。 彼女はため息を一つつく。 「あんな風に睨んでおいて、信じられるわけがないでしょう。解りきった嘘、つかないでもらえるかしら。腹がたつから」 「お嬢には効かへんもんな。久しぶりやから調子狂っとるんや、そのうち戻るよって」 悪意のぶつけ合い。遠慮のない、本音の応酬。そんな、彼女以外としたことのない、八年近くブランクのあることをしようというのだから、体が温まるまで時間がかかるのだ。 「つまりやな、俺とお嬢、どっちが上か、ゆうの。白黒つけたいんや」 車は、二度目の峠道へと突入し、ステアリング操作は予断を許さない。 けれど、何かをしていた方が、会話に無理なく集中できることにシゲは気付いた。気負いすぎなのだ、要するに。他の何かにエネルギーを分散させて、丁度良くなる。 「中学の時から、お嬢に勝ったって気がせえへんのや。負けとるつもりもないんやけどな」 そう、だからこれほどまでに、彼女のことだけ覚えているのだ。 屈辱感で。八年近くも。 「こうやって再会したんも、ええ機会やろ。勝負せえへん?」 今度こそ、彼女に勝ちたい。 「そんなことだろうとは思ったわ。あなたが私をどう思ってるかぐらい。あんなに熱烈に睨まれればね」 「そんなにあからさまやった? 俺。笑っとったやろ、ちゃんと」 「そうね、口で笑って、目で睨んでたわね」 「そりゃ、お嬢もやって」 彼女は、ふっと軽く笑う。 「勝負はいいけど、一体何で勝負するの?」 「男と女が一つのフィールドに立つん、方法なんて一つしかあらへんやん」 「勿体つけないで」 「ハイハイ。恋愛なら、男も女も同条件。先に相手に惚れた方が負け、や。どや? シンプルやろ」 「棄権は負け、とか言い出しそうね。断ったら」 「そうはいわんけど。ほかに思い付くか? 対等に勝負できることなんて。こんな風に言い合いしとったって埒あかんし」 今となっては、中学時代みたいにサッカーで勝負、なんてできやしない。結果はわかりきっている。シゲはプロだ。 「いいえ、思いつかない。いいわよ。じゃあ、勝負しましょう。先に好きだっていった方が負けね」 「よっしゃ」
シゲはアクセルを踏み込み、ギアを一つあげた。
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