シゲ編 #5 /// site top / text index / ニセモノの恋 index


#5 敵は然る者

シゲの背後の、シゲがさっき出てきたドアから、チームメイトがぞろぞろ出てくる。
 真っ赤な振袖の上条麻衣子に、次々に視線は集まる。
 その視線にまごつく様子もなく、彼女はシゲに見せていた笑いとは全然違う、柔らかな笑みを浮かべ、頭を軽く下げながら挨拶してみせている。

余裕、といった所か。まったく、この少女は。

 いや、もう大人なのだから、この女、でいいのか。それも何か違う気がする。女性としての彼女に向けての悪態ではない。天敵である彼女に向けて、なのだから。女性として、というよりは、男同士、ライバルに向けてにむしろ近い。

 じゃあ、この野郎、か? いや、それも違うが。

「この野郎」
 シゲではない、男の声が響く。
「藤村ふざけんなよ? あんなかわいい子ォ」
 先輩がシゲの首に乱暴に腕を回し、彼女からぐいぐい引き離しにかかる。シゲは申し訳程度にその腕をたたき、ギブギブ、と訴える。
「僻まんといてくださいよ。日ごろの行いが善かったんですよきっと」
「月代わりで彼女変えとるお前が言うか!」
 やけに大声で先輩が言った。これはあれか、わざと彼女に聞かせているのか。わかりやすいって先輩。
「それもこれも真実の愛を見つけえって、神さんが俺に与え給うた運命ですねーん。とーいうわけで、先輩車貸してください」
 手を組んでお願いポーズを取る。
「先輩今日車で来てはりますやろ?」
 甲府での試合に、京都住まいの先輩がなぜ車で来たのかまでは知らないが。
「はあ? ふざけんなやお前、なんで俺がお前のために愛車貸さなならん!」
「恩は売れるときに売っとくもんでっせ、旦・那」
 人差し指で先輩の胸をつんつん、とつつくと、勢い良く突き飛ばされた。
「先輩、つれない……」
 泣いてみせた。
「やめろおま、おっ前気色悪いっっ!」
 両二の腕ををさすりながら叫ぶ先輩に、シゲは掌を差し出す。先輩はたたきつけるようにキーを置くと、「傷モンにしてみろ、殺すからなっ」と至極物騒なことを言って逃げるように走り去る。シゲはキーをちゃらちゃらやりながら、その背に
「毎度おおきに―」
と声を掛けた。

「うまいモンやなーシゲ」
「先輩はノリックと違ってこういうとこがかわいいわー」
「うっわ先輩、気の毒。てかシゲ、お前彼女ほっといてええのん? すっげ、ちょっかい出されとるで」

 ノリックに示された方向を見れば、体格のいい野郎供(言わずもがな、チームメイト)に囲まれて誘いを必死に断っているらしい、少し困り顔の彼女。
 あー、困った奴らやな、とノリックに答えたシゲは、全然別のことを考えていた。

 彼女の困り顔は演技だ。そんなタマではない。言い切れる。

 だって彼女は上条麻衣子。シゲの天敵なのだ。





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