シゲ編 #4 /// site top / text index / ニセモノの恋 index


#4 ハブとマングース

ああ、大人になっとんなぁ。

 背筋をぴんと伸ばしてベンチにすわり、正面の壁を睨むように見つめている彼女、上条麻衣子の横顔に、ふとそんな感慨がわいた。
 こうして至近距離で見れば、記憶の中の彼女とは随分と変わっている。
 基本的なつくりは一緒だが、バランスが違う。顔も、体も。当時から長かった胸まである黒髪も、艶やかさを増している。有体に言えば、女の子から大人の女、になっている。

「よう、久しぶりやな」
 こちらに気づかない彼女に、かるく手をあげて挨拶をする。彼女はシゲの声にゆっくりとこちらを見た。
 彼女の真っ直ぐな視線。
 じわりと自分の体が緊張するのがわかった。天敵を前にして、反射的に、戦闘態勢に入っているのだ。
 シゲは苦笑した。

―――全く、何年ぶりや思っとんのや。こんな即効反応しよって。しょうもない。


「お嬢、何、そんなめかした格好して応援しに来てくれたん? 嬉しいわー」
 俺は彼女に歩み寄り、あと三歩で接触、ぐらいの距離で立ち止まる。すう、と綺麗に立ち上がった彼女は、動いたことで乱れた髪をさりげなく直し、口元を軽く上げる。
「ええ、お久しぶりですこと。軽口も相変わらずね、11番さん」
「ちょお、それは無いんちゃうの」
 11番って。まあ確かにシゲの背番号は11なのだが。
「久しぶりすぎて、名前が思い出せませんの」
 彼女は小首を傾げる。黒髪がさらりと揺れた。
「嘘やろ、さすがに」
「ええ勿論」
 彼女は笑った。
 可笑しそうに、ではなく。楽しそうに、でもなく。彼女の瞳は黒い。茶の色素がほとんど混じらないその瞳は、硬質な彼女をよく表している。

 その瞳で、挑むように笑った。

 耳の辺りで、血が騒ぎ出すのがわかった。思い出した。この感じ。彼女と相対するときは、いつもこうだった。
 本気で立ち向かわないと、テリトリーを侵される。全力でないと殺られる。

――天敵。

 シゲは彼女の目をじっと見返す。頬にはいつもの笑みを張り付かせたまま、けれど視線に込められた真意ぐらい、彼女はとっくに気付いているだろう。
 彼女も、目を逸らさない。笑ったまま。
 双方笑顔だが、実際は睨み合いだ。

 均衡を破ったのは、どちらの側でもなかった。

 シゲの背後で、ドアの開く音がした。





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