シゲ編 #2 /// site top / text index / ニセモノの恋 index


#2 赤との遭遇 


試合終了のホイッスルが鳴る。観客席がわきたつ。

―――今日もまずまず、やな。

シゲは観客に手を振りながら内心呟く。3アシスト、1ゴール。チームは3‐1で勝利。サポーターにアピールサービスをしていると、突然チームメイトに背中に乗られて苦笑いになる。
「重いでノリック」「アホいいなや、こんぐらいで」

中学から腐れ縁の友人はご機嫌だ。
「これで勝ち越しなんやから、もっときばりぃ」「へいへい」

走る。チームのサポーターが多いエリアまで走る。で、さらに走り回る。シゲとノリック、もとい吉田光徳はチームの2トップで人気も高い(らしい)ので、サポーターも乗り良くウエーブなんか始めたりする。

ノリノリで一向に背中から降りる気がない吉田光徳に付き合わされる格好のシゲは、チームカラーの紫や、グッズの黒灰色で埋め尽くされたそのゾーンに、不似合いに鮮やかな色を見つけた。

 赤だ。

赤いものがスタンドの階段をゆっくりと降りている。
人一人にしては、布の面積が広い。三人分ぐらいはありそうだった。
シゲは走り回っているふりをして、そちらに近づく。ゆっくりと階段を降りてくる赤いもの。
人間。人間で、赤い……着物だ。赤の振袖を着た人物が、ゆっくりと階段を降りてきているのだ。
「なんや不釣合いな奴がおるなあ」

足を止めたシゲの背からようやっと降りた吉田光徳も、その赤に気付いた。
とりあえず、手は振ったまま、視線は固定しないまま(固定するとサポーターにバレバレなので)シゲはノリックとともにその人物を気にした。
その人物は大分階段を下り、背に流した長い黒髪や、顔立ちが見えるようになった。
「お、別嬪やん」

ノリックの声に、返す言葉がなかった。
「……おい、シゲ?」

 こんな偶然、あるのだろうか。 

思い出した日に、 こんな風に現れるなんて。

上条麻衣子。

見間違いようがない。

顔も仕草も、その表情もシゲはちゃんと覚えているのだから。





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