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エピローグ後プロローグ〜卒業についてのあれこれ4〜


「最後まで嫌がらせ?」 
「最後やからな」
そう、嫌がらせも、嫌がらせさえも、これで最後。
「持っとき。そのうち、プレミアつくで」
人差し指と親指でお金の形を作りながら、シゲは笑って言った。

無理に押しつけたとはいえ、卒業式に第二ボタンだ。他のどんなプレゼントよりも、記憶に残りやすいだろう。
例え捨てられたとしたって。万が一、手元に残しておくならば、なおさら。
「プレミアですって? 何十年後の話? それまで取っておくなんて、冗談じゃありませんわ」
「十年はかからん」
「己惚れすぎよ」
「謙遜した数やけどなぁ」
言い返したシゲに、上条麻衣子は眉根を寄せ、腕組みをして言った。
「……あなた、高校は京都でしたかしら?」
「まあな」
京都は親父のお膝元。思うことが無いわけではないが、サッカーのための環境だと割り切ってしまえば条件は申し分ない。首に手をあてながらシゲが答えると、彼女は皮肉げに口元を上げた。
「せいせいしますわ、おかげで」
言ってシゲの目をまっすぐに見る彼女。
そのまま、「さよなら」と口にした。
「……それだけ? お嬢、ずいぶん冷たいやん。もう、会うこともないかもしれんのに」
「じゃあ何て言えば良いのかしら? 京都に行っても元気でね、サッカー頑張って、なんて台詞、あなた聞きたい?」
誰も彼もがシゲに言うような台詞。確かに、そんな台詞を聞きたかったのではなかったが、じゃあ、どんな言葉をシゲは期待していたのだろう?
組んでいた腕を解き、彼女は窓へと向き直る。
整った鼻梁が印象的な横顔が、すぐ目の前に。

「さよなら」

彼女は窓の外を見つめたまま、ことさら乾いた口調でもう一度繰り返した。
艶やかな黒髪が春風に流れている。
シゲの相手をする気は、もう無いらしい。
聞こえよがしにシゲはため息をひとつつき、彼女の傍を離れた。
最後の別れには物足りないが、潮時だろう。

シゲは、上条麻衣子の席へ置いていた紙袋を持って水野と小島有希の席へと足を運ぶ。
「なんや、こっち見とったんかい、やらしーなぁ」
こっちを注視していたらしい二人は、そろって呆れた顔をしてシゲを見た。
「……話、終わったのかよ」
「んー、マトモに話せんかった、って感じやな。相手にして貰えんかった」
水野に言うと、小島有希がぶすっとした顔をシゲに向けた。
「そりゃそうでしょうよ。麻衣子がなんであんたの顔見たいと思うのよ、今日は卒業式だってのに」
「小島ちゃんまで冷たいー」
「自業自得よ」
「あはは、さよか」
身に覚えがなくもない。シゲはとりあえず笑っておいた。

「じゃあなタツボン、またそのうち選抜ででも。小島ちゃんも、多分どっかで会うやろ。またな」
おざなりな返事を二人から受け取りながら、シゲは机の間を縫って出入り口へ向かった。
引き戸のところで、シゲは立ち止まり、振りかえる。
窓の外を向いたまま、きれいな姿勢で立っている彼女の背中が見える。
しばらくそのまま眺めていたが、彼女はこちらを見なかった。
会うのはきっと、これで最後だ。
「ま、しゃーない、か」
自嘲気味に呟くと、シゲは教室を後にした。
さよならのひと言は、最後まで口にすることのないままに。



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