開け放たれた窓から、桜がひらひら飛んできて、机のはしっこに留まった。 どおりで眠い。「祝・卒業」と書かれた黒板を眺めつつ、水野竜也はあくびを噛み殺した。
もう、春なのだ。
エピローグ後プロローグ〜卒業についてのあれこれ1〜
式の後にある最後のホームルームも、もうすぐ終わる。 周りを見渡すとちらほら泣き顔にぶつかった。 まあ卒業だしな、とは思うものの、泣くほどの感慨は湧いてこない。 この日の水野には、そんなものより更に切実な問題があった。
最後の起立、礼。 直後、水野は鞄と卒業証書を手にして、同じクラスの小島有希の席へと向かう。 「悪い小島、ちょっと避難させてくれ」 到着すると丁度、小島の隣の席が空いたところだった。 椅子に乱暴に腰を下ろすと、小島は机の上に広げられているものを鞄にしまい込もうとしていた手を止め、視線を上げた。 「避難?」 「ああ。さすがにお前の隣にいれば寄ってこれないだろ」
今日は卒業式だしプレゼントとか花とか渡すって口実があるし、ってな訳で、普段以上に喜声を上げて水野に迫るだろう集団も、小島有希の隣にいれば遠慮してくれるだろう。 一応、『彼女』なのだし。
以上をごく簡単にアイ・コンタクトで済ませる。
「ああ、なるほどね」 頷いた有希は、斜め目線でなぜか水野を睨んで言った。 「なによ、最後なんだから行ってあげればいいじゃないの」 「絶対嫌だ。何されるかわかったもんじゃない」 どんなに軽く被害を見積もっても、ボタン全部むしり取られるぐらいはするだろうし。 「ふうん、そう。水野って、冷たいんだ」 そう言って有希は頬杖をつき、廊下の方へと顔を逸らす。 「なんだよ」 いらついて、つい不機嫌な声を出してしまった。 どうしてこいつは、平気で他の女子の肩を持てるんだか。 妬きもせずに。 大体、水野が有希の傍にいなかったら、こいつにだって「最後だから」とか言って男が群がってくるってわかってるのか? こうして二人でいても、意味ありげな視線を投げてくるのは女子だけじゃないのに。 水野の憮然とした様子には気づかない様子の有希は、ため息をついてから、呟くように言った。 「どうして男ってこう、無神経で冷たくてサディストなんだろ。可哀想だわ」 「そこまで言うか」 「水野のことじゃないわよ」 「じゃ、誰だよ」 「決まってるでしょ。あいつよあいつ」 小島有希がアイツ扱いするのは、大抵の場合。 「シゲが? あいつなら今日は喜んでファンサービスしてるだろ?」 水野とは正反対に、来る物拒まずで。 なのに一体どこが冷たいんだと言いかけて、水野は口を噤んだ。 噂の人物が、教室に、紙袋片手に現れたので。
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