罪の果実
「どういうコトよ、これは!」 久しぶりのデート。 待ち合わせ場所で会った途端に、真っ赤な顔で、彼女はシゲに雑誌をつきつけた。 男性向けの総合情報誌で、冒頭6ページを使って、シゲのインタビューが載っている。確か先月受けたやつだ。実は、シゲはまだ読んでいない。 とりあえず、おとなしく、インタビュー記事に目を通す。
『彼女の可愛い所……膝小僧とか足とか? つま先なんか、コロっとしてて、ちっちゃくて可愛い』 『膝丈スカートの魅力に目覚めたんや、最近。彼女にはいて貰うなら絶対膝丈。ストッキングもはいてたらなお良し。ミニスカはそろそろもうええかなぁって』
「ああ、このあたりの事かいな」 シゲが顔を上げると、未だ怒りで顔をあかくしたままの彼女に、 「変態!」 と詰られた。 「だって俺以外の男に麻衣子のふともも見せたくないやん」 「だからって、こんな、雑誌で言うことないじゃないの! 恥さらしだわ、もう!」 「もっとマトモな事もちゃんと言うたんやけどなぁ。いろものばっか載せるんやから困ったもんやで」 「嘘おっしゃい!」 「ああ、なるほど。足フェチで最後オチ組んどるんやな。しゃーないなぁ」 「しょうがなくなんて、ありませんっ! なんでこんな……なんでよ、もう!」 彼女は額に手を当て、深くため息をついた。 「もうスカートはいて大学行けないじゃないのよ……」 「ミニはあかんで」 「はきません!」 「俺の前でだけならええけど」 「もう、なんなの! シゲにはもう足見せないから! 覚えておきなさいよ」 「肩出すんも嫌やなぁ。今は寒いから時期やないけど、夏になったら肩出し禁止な」 「嫌よ。絶対にいやです。いいじゃないの、ノースリーブの何がいけないのよ」 「禁止ったら禁止」 「理不尽だわそんなの。その自慢の金髪、黒く染めて欲しい?」 ケンカ腰でぐっと身を乗り出した彼女に、シゲは微笑みかけた。 「お嬢、最近ごっつぅ綺麗になったの、自分で気付いとる?」 「え」 突然のシゲの言葉に、彼女は拍子抜けしたように、言葉をのみこんだ。 シゲは軽く息を吐き、やれやれ、と雑誌を丸めて自分の肩をぽんと叩いた。
今の彼女を見て、子供と思う人間はもういないだろう。顔立ちも、肢体も、大人の女性のそれだ。 仕草が洗練されて、彼女の魅力でもあったあどけなさが、色香に変わった。化粧や服装もすっかり垢抜けた。パーティーに一人で紛れ込ませたら大変だろう。年上の男からの誘いが引きも切らないはずだ。 多分、社会的にかなり上等な部類の男から。
「俺、この間のデートでようやっと気付いたんや。待ち合わせ場所に行ったとき、お嬢のこと見てる奴ら、けっこう仕事出来るかんじの、年上の男ばっかりやった。今までは、同年代が多かったんに。こら、やばいなぁって。付き合うとるからって、うかうかしとったら、横からかっ攫われるって」 「だったら……何なの。誤魔化されないわよ、インタビューであんなこと言った理由にはならないわよ」 「俺の彼女やからって、お嬢に興味持ってコナかける輩が増えんの嫌やなぁ、って思ったんや」 地位も実力もある男なら、シゲの存在なんか気にしないだろう。むしろ、有名人の彼女という高嶺の花を落としてみたくなるのが、自分に自信のある男の性だ。 「あんまりお嬢のホンマの魅力アピールしたらアカンやろ。アホ言って読み流してもらお思って」 彼女はうつむく。「そんなこと言っても、騙されないわよ」 「ホンマやで」 「嘘。あなた口が上手いもの」 「お嬢に嘘はつかんって」 「……じゃあ、私の本当の魅力って何?」 「ここで言うのん?」 「言ってくれたら、騙されてる気はするけど、許してあげる」 「そうやなぁ」 シゲは腕組みをして彼女を見た。 「……髪が好きや。感触とか、ちょっと冷やっとする温度とか。お嬢によう似合うてる」 「髪だけ?」 「笑った顔が好きや。こう、たまに、ふわっと柔らかく笑うことあるやろ。心底うれしそうに笑うときもあるし。あれは、見とれる」 シゲは腕を伸ばして、彼女の黒髪に触れた。 「目ぇとか、肌とか、声とか、もっと色々あるんやけど。できれば、二人っきりになれるとこで話したいなぁ」 彼女はしばらくそっぽを向いて黙っていた。 「……下手な誘い方」 「すまんな。スマートには誘われへん」 「別に……そんなのあなたに期待してるわけじゃないけど」 シゲの傍らに立つと、彼女は自分からシゲの腕を取った。 「頭が冷えたら寒くなってきちゃった。早くどこか入りましょ」 「機嫌治ったな。よかった」 彼女に笑って、シゲは歩きだす。 少し歩いてから、ふと思いついて、シゲは歩く速度を緩める。 「あ、ミニスカの話だけ。ホンマに、人前で履かんで欲しいねん」 「どうしてよ?」 不機嫌な声の彼女に、シゲは遠慮なく言った。 「男なら、100%、お嬢の太腿見て欲情するから」 彼女はばっと顔を上げ、シゲを見た。 「お嬢かて、嫌やろ、知らん男にそんなんされんの」 「あなっ、何言って……」口ごもる彼女の顔が、みるみるうちに赤くなった。 「お嬢、足きれえやもん。魅力的すぎるから見せたらアカンねんて。他の男誘わんで欲しい。いらんトラブルの元や」 「そんな事あるわけないじゃない……」消え入りそうな彼女の声に被せるように続ける。 「昔はミニスカート履いて貰わんとお嬢の足見られんかったけど、今は違うけぇな」 「……あなたねぇ」 赤い顔のまま、照れているのを隠しながら、彼女は抗議するようにシゲの服の袖を引っ張って耳元にあかい唇を寄せた。 「 」 こんな風に照れながらシゲを詰るところも、彼女の魅力の一つだけれど、いくら当人でも、教えるのは勿体ない。 シゲはこの秘密を独り占めにした。
〜END〜
|