天使と堕天使/// site top / text index |
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天使と堕天使金の髪をなびかせて駆け寄ってきた彼女は、俺の腕の中に、崩れ落ちるようにしておさまった。 「もうすぐだな」 声に振り返る。悪魔の男が、いつの間にか背後に立っていた。 「お前、いつの間に!」 俺は彼女を抱きしめる。「どうしてここにおるんや!」 堕天するのなら、誰一人、何一つ、本気で愛せはしない俺のほうだろう。なのに何故。 「……神のように、万物を愛す。万人を愛す。現世に在る、生きとし生けるもの、総てを。それが天使の掟だ」 「悪魔の癖に、よお知っとるやないけ」 俺は笑い混じりに恫喝する。悪魔は涼しい顔のままだ。 「天使は、禁忌を破れば堕天するものさ。俺のようにな」 悪魔は自嘲するように言った。 悪魔の男は、俺の目を見る。「彼女に愛されても、愛し返せないお前自身を恨むんだな」 次の瞬間、悪魔の姿が掻き消える。 俺は腕の中の彼女をふたたび揺さぶった。 何故、俺なんかを愛する? あんたに優しくしたことも、愛したこともないのに。 いくら愛情を与えられても、俺は返せはしないのに。 髪に目に胸に、堕天の証を刻まれてまで。 「お嬢!」 「お嬢、目ぇ覚ませ! まだ間に合う、俺なんか嫌いになればええんや、お嬢!」 彼女はうっすらと目を開けると、両手で俺の胸を強く押した。目を開けた彼女に気をとられていた俺は、突然加わった力に抗えず、腕を緩めてしまう。彼女は俺の両腕から逃れると、自分の髪の色を見、唇を噛んだ。 その両目から、涙が溢れる。 「お嬢」 「近づかないで……傷つくだけだわ」彼女は泣きながら笑い、黒い瞳で俺を見つめる。 「ごめんなさい、傷、そんなにいっぱい」 彼女の翼に、黒い羽が生え揃う。 「お嬢……待て、お嬢!」 彼女の瞳が、ゆっくりと閉じられる。 黒い髪はふわり舞い、黒気が体を包むように巻きながら、凝縮する。 ごめんなさい……あいしてるわ。 小さく言い残し 「お嬢!!」 叫び声が虚しく響いた。
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