パラレルでシンデレラ3 風みゆの場合/// site top / text index



3〜風みゆの場合〜

カザマツーリ男爵は、朝から大変な目に遭っていました。カザマツーリ家自慢の二人の娘に、同時に求婚者が現れたのです。それも、ふつうの求婚者ではありません。

上の娘には魔法使い。下の娘には王子。
「はぁぁぁぁ」ため息をつくカザマツーリ男爵を尻目に、求婚者たちは承諾を得ようと、娘たちと追いかけっこをしています。
「近づかないでくださる! 私、あなたと結婚するなんて承諾した覚えはありませんわ!」と、シンデレラの義姉。
「そうよ! 魔法使いが、どうしてカザマツーリ男爵家を継げるって言うの!」と、シンデレラ。
「そんなん魔法でちょちょいっと。なあヘタレ王子」と、魔法使い。
「ヘタレはやめろ。まあ、一応俺王子だからな。シンデレラが花嫁になってくれれば、多少の融通は利かせてやるよ。奥さんの実家だし」と、王子。
「ちょっと、タッグ組むの狡い!」「なんで知り合いなのよ、あなたたちは!」と、カザマツーリ姉妹。
「幼なじみの腐れ縁や」「目的が一緒なら、協力もするだろう」端的に返す二人。
カザマツーリ姉妹は、うっ、と言葉に詰まります。

「冷たいなあしっかし。お嬢のために、あんなことまでしたったのに」
「あんなこと?」耳ざとく聞きつけたカザマツーリ男爵夫人が聞き返します。
「ちょっ、内緒って言ったでしょ!」魔法使いの口を塞ぎにかかる義姉を、魔法使いは腕の中に閉じこめてしまいます。
「は、放しなさいっ」「結婚してくれるなら放したる」「なっ……」二の句が継げなくなる義姉は、耳まで真っ赤です。
「あー失礼、あの、娘とはどういう……?」さすがに気になったカザマツーリ男爵は口をはさみます。
「そらーもう、あんなことやそんなことやこんなことを」「何言ってるのよ馬鹿! 誤解されるでしょう!」「じゃあ、本当のこと言ってもええのん? 俺は別にかまへんけど。お義父さん、昨日な」「だめだめ、内緒だってば!」義姉は再び、魔法使いの口を塞ぎにかかります。
 昨日、結局シンデレラが帰ってくるまでに掃除は終わらず、ドロドロのままの床や暖炉、ついでに汚れた服やなんかも、魔法使いが魔法できれいにしてあげたのでした。義姉が階段を踏み外したのを助けたりもしました。それらを全部、シンデレラには内緒と、堅く約束させられていたのです。
 そうとはつゆとも知らないカザマツーリ男爵には、なんだか恋人同士がじゃれ合っているようにしか見えません。「あー。だいたい分かったよ」あきらめの声に、「違うのよお父様!」と義姉は必死で訴えます。「放しなさいってば!」「だって、そないな赤い顔で言われたら、放したなくなるやん」腕を緩めるどころか、抱きしめながら魔法使いは言いました。声にならない義姉の声が、魔法使いの胸から聞こえてきました。

「さいあく……」
全く恐れていた通りの事態になってしまい、シンデレラは額をおさえて呻きました。まさか家に居ながらにして義姉に悪い虫がつくとは、思ってもみませんでした。
「あきらめるんだな。俺もあいつは敵に回したくない」王子はため息をつきながら言いました。王子もシンデレラの義姉に同情しています。
「いずれあの二人は結婚することになるだろうから、せいぜい自分の結婚でカザマツーリ家をもり立てることを考えるんだな、シンデレラ。俺なら、なんとでも協力できる」
「……あのねえ、あんた、王子でしょ? なんであたしなの? あたし、カザマツーリ家のことしか興味ないんだけど」「そこがいい」「は?」
王子は襟のボタンを外してのど元を緩め、息を吐いてから言いました。
「俺、女って苦手なんだよ。駆け引きとか甘いささやきとか、そんなもの俺に求められても困るんだ。終いには公務と私、どちらが大事なのですか、とか言い出すし」
「ああ、そうかもね、夢見る乙女はねぇ」うんうん頷くシンデレラ。
「シンデレラ、お前は恋人と家ならどっちを取る?」「家」シンデレラは即答しました。
王子は満足げに笑って、「俺も、公務だ」と言いました。
「似たもの同士なんだよ、俺たちは。うまくいくと思わないか?」
シンデレラは、冷静に考えました。確かに、カザマツーリ家にとって、こんなにいい話はありません。カザマツーリ家を継ぐことになるのがあの魔法使いだということが、気がかりではありましたが。
「そうね。言われてみれば、そうかもしれない」
シンデレラは頷きました。
「じゃあ、決まりだな」
王子は手を差し出しました。シンデレラはその手に自分の手を重ねました。至近距離で、シンデレラは初めて王子の顔をよく見ました。
(ああ、目の色が薄いのだわ、この人は。髪の色も。きっと、日に透かせばもっと薄くなる……)
思いの外、長い時間見つめてしまったようで、王子は不意に目をそらすと、「……あんま見んなよ」と呟きました。顔色は変わりませんが、首のあたりにかすかに朱がのぼっているのに、シンデレラは気づきました。
(……顔はこんなに冷静なのに……意外……)
自分の胸がどきりと脈打つ理由に、シンデレラはまだ気づいていませんでした。
一方の王子は、手袋をはめていてよかったと心底思っていました。
(昨日も思ったけど。相手の目をまっすぐ見るんだな、こいつ)
直にシンデレラの手に触れていたら、手が強ばったのを気取られていたかもしれません。
見られるのが当たり前の王子である自分が、シンデレラに見つめられて緊張してしまうのはなぜなのか、王子はこのとき、うっすら気づきました。

「はぁぁぁぁ」何度目か分からない深いため息をついたカザマツーリ男爵に、カザマツーリ男爵夫人はお茶を出しつつ、言いました。「なんだか、一気に娘が片付いてしまいそうですわね」「そうだね……ちょっと寂しいかな……」「わたくしがおりますわ、あなた」視線をあげたカザマツーリ男爵は、男爵夫人の顔を見て笑顔になりました。「そうだね。娘たちが幸せになるなら、それでいいよね。僕には君がいるし」
「ええ」カザマツーリ男爵夫人は、にっこりと微笑みました。
(これでようやく、ゆっくり二人っきりで過ごせるのね)
男爵夫人は心の中で、魔法使いと王子に深く深く感謝したのでした。



end



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