パラレルでシンデレラ1 シゲマイの場合/// site top / text index



1〜シゲマイの場合〜

 とある国の、とある家に、魔法使いは降り立ちました。この家にはシンデレラという娘が住んでいて、継母と義姉にひどい扱いをうけている、そんな情報をどこからかつかんでいたからでした。
「持って生まれた魔法の才、使わな宝の持ち腐れやもんな。人助け人助け」とかなんとかいいながら、本音はかわいい娘に恩を売って……という、なんとも不純な動機の魔法使い。当然、男の願い事なんか、生まれてこのかた叶えたことありません。
 大きな暖炉の前、灰で手や顔を汚しながら、掃除をしている娘がひとり。噂どおりです。今日は、お城で舞踏会だというのに。他の年頃の娘は皆、こぞってお洒落をし、出かけているというのに。
魔法使いは声を掛けました。
「かわいそうなシンデレラ、舞踏会に連れてったろか」がばり振り向いた娘の第一声は、
「だれがシンデレラですって! この私をあんな小娘と間違えるなんて、あなた、目腐ってるんじゃなくって!」でした。
「え、お嬢さん、シンデレラちゃうの?」ついつい、尋ねてしまう魔法使い。
少女は握りこぶしをぶんぶん振りながら、力いっぱい否定しました。
「わたしはシンデレラの義姉よ!」
「お義姉さんがなんで暖炉掃除しとんの」
話が違いやしないか、と魔法使い。
「これは勝負なのよ!」「勝負?」「そう。シンデレラと私、どちらがこの家一番の娘なのか!」
「……この家一の娘?」「ご近所で評判の娘といえばこのカザマツーリ家の娘、というのがもっぱらなのよ。でもカザマツーリ家には私とシンデレラ、娘が二人いるのよね。だから勝負しているの! 私とシンデレラ、どちらが上なのか!」
いやいや、なぜ暖炉掃除をしているのか、不思議なんですがお嬢さん、と質問した魔法使いを無視し、娘は灰を掻きはじめます。
「見てなさいよシンデレラっ、あんたが舞踏会で遊んでいるうちに、暖炉掃除だろうと風呂掃除だろうと床磨きだろうと、完璧にこなしてあんたより一歩リードしてみせるんだから!」とかなんとか、ぶつぶつ呟きながら。
魔法使いは、ちょっと考え込んでから言いました。
「シンデレラは暖炉掃除できへんの?」
「『家事全般、特に掃除が苦手なのよね。義姉さんには内緒よ』って、庭の花に話しかけてたのを盗み聞きしたの」
答えて、娘は舞い上がった灰に咳き込みました。
(庭の花に独り言、ねえ……義姉さんに内緒ってわざわざ言っとるし、ものっそ怪しいやん)
もしかしていいように操られてませんか、という言葉を魔法使いは飲み込みました。娘は一生懸命、本当に一生懸命にやっているのですが、段取りの悪さかはたまた不器用が祟ってか、掃除はなかなか進みません。
「魔法でお手伝いしまっせ、お嬢さん」ついつい申し出てしまいましたが、娘に一蹴されます。
「実力で勝たなくちゃ意味ありませんわっ」「だって終わりそうにないんやもん」「なんですってぇぇぇぇ!」
娘は魔法使いにつかみかかります。魔法使いは自分の服に灰がつくのも気にせず、笑い始めました。娘はますます怒り、つかんだ襟首をゆさゆさ揺すります。「何笑ってるのよ失礼ね!」
「だってお嬢、鼻の頭黒ぅなっとる」魔法使いは娘の鼻の灰を、親指で拭ってやります。
娘の動きが、ぴたりと止まりました。「ん? お嬢?」
魔法使いが顔をのぞき込むようにすると、娘の顔が、みるみる赤く染まります。
「お、耳まで真っ赤」「なっ、ばっ、馬鹿っ!」
大声で叫んだ娘は、魔法使いを突き飛ばして後ずさり、灰の入ったバケツを蹴り倒し、驚きで更に水の入ったバケツも蹴り倒してしまいました。「あーっ! せっかく掃除したのに!」
娘は雑巾やちりとりで何とかしようとするのですが、焦っているので悪化する一方です。
「……さすがに手伝うわ」「いいわよ、いらない! いらないから近寄らないでってば!」惨状の責任を感じて近づく魔法使いから、距離を取ろうと娘は逃げ出します。
その顔は、やはり真っ赤でした。

「……おもしろい」

魔法使いは不穏な笑みを浮かべて、ぼそっと呟きました。

運命はこの時決まってしまったのだと、後に娘は思い出すことになります。



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