異性から呼び出しを受けるのは正直、日常茶飯事だった。 だから、言われた言葉にこれ程動揺させられるとは、思ってもいなかったのだ。
だれか好きな人いるんですか、という問いに、水野はノーと答えた。 じゃあ小島有希さんのこと、好きな訳じゃないんですね、という問いに、水野は答えられなかった。 じゃあやっぱり、水野先輩は有希先輩のこと好きなんじゃないですか、と言われて、水野はまた、ノーと答えた。 告白してきた女の子は、わけがわからない、という顔をした。
正直言って、どうしてそんな答えになったのか、水野にもさっぱりわからなかった。
名前のない恋 2
「小島、これ頼む」 水野は手の中のバインダーを小島有希に手渡した。 「何? コレ」 「コーチに貰った次の対戦相手の資料。お前も目ぇ通しておいてくれ」 「わかった。で、どうなの。勝てそう?」 「負ける気はしないな」 「なんでそう言い切れるわけ? 嫌味?」 「単なる感想だろ」 「それが嫌味だってのよ。あー負かしたい。その鼻へし折りたい」 「あのなぁ……俺ならいつでも相手になるぞ」 「はあーい覚えておきまぁーすありがとございまぁーす」 妙な発音での間延びした答えに水野がため息をついていると、遠くから野次が飛んできた。 そのほとんどが「いちゃいちゃしてんじゃねえ」の類で、水野は思わず笑った。
今のやりとりの、どのあたりがそう見えるんだか。
「ったく、面倒よねぇ」 野次馬を睨み付けながら小島が言った。 「だよな」 そう返して、二人並んで帰路につく。いつの間にか、小島と一緒に帰るのが当たり前になっていた。
つきあってるとか、お似合いだとか、からかわれるのは正直、癪に障る。でもだからといって帰る時間も方向も同じなのに、わざと時間や道をずらすような真似をする方がさらに癪だよね、と意見が一致したのだ。
小島と交わす会話に、色恋の要素は何もなかった。 ほとんどがサッカーの話題、部の問題、偶に授業やテストのこと。 隣に彼女が居ることに、なんの気負いも違和感もない。 小島の隣に並ぶのは、水野にはとても自然なことだった。 周囲が、水野と小島の間柄をどう捉えているかは気にもとめていなかった。 関係なかったのだ。今日、あんなことを言われるまでは。
『小島さんのこと、好きなわけじゃないんですよね?』
付き合ってはいない。 嫌いじゃない。 好き、とは言えない。 でも好きじゃないとまでは言いきれない。
隣に小島がいる。 当たり前のように、一緒にいる。 水野にとっては自然なことだ。 けれど一度気付いてしまえば、それは不思議な感覚だった。 ただの、中学の同級生でチームメイト。 この先、どんな道を歩むことになるのかなんて、自分はもちろん、小島だって、実際の所、全然解らないはずなのだ。 だから、とんだ勘違いだ。
この先もずっと、こんな風に、隣に小島がいてくれる気がするだなんて。
この感情には名前がない。この関係には名前がない。 だから好きとか嫌いとか、簡単に言えないのだ。
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