夏の海2
「そろそろ交代しようかな」 小島有希はそう呟き、波打ち際から砂浜へと歩きだした。荷物番をしている水野も、いいかげん退屈だろう。 軽く手をふると、有希に気付いたばかりの水野はやる気無く片手を挙げて答えた。
「私も行くわ」
背中にかけられた言葉にふり向く。 上條麻衣子が、額に張り付いた黒髪を指先で整えながら追いかけてきた。 「荷物番に行くんだけど、いいの?」 「ええ。ちょっと休みたいわ」 「もう疲れた?」 「日陰に入りたいの。日差しがきつくて」 有希と肩を並べて歩きだした麻衣子は、眩しいくらい肌が白い。 「軟弱な色しちゃって、麻衣子、屋根の下にばっかり居るんでしょ。たまにはサッカーしたらいいのに」 「高校に女子サッカー部って無いんですもの。しかたありませんわ」 「フットサルは?」 「一人で行って仲間に入れて貰うのは勇気が要るのよ、あなたと違って」 「そんなもんかしらね。あ、ちゃんと日焼け止め塗った? いきなり焼くと火傷するわよ」 「手の届くところはちゃんと塗ってるわ。有希こそ、日焼けに慣れてると思って油断すると火傷するわよ。砂浜の照り返しって凄いんだから」 「ほんと、眩しいわよね。眼ぇ開けてらんないもの」 有希と麻衣子はパラソルに近付いてゆく。
怠そうな表情をして、水野が立ち上がった。 「交代するわよ。待ちくたびれたでしょ」 「いや、久々にのんびりできた気がする。このまま昼寝したい位だ」 「泳いで目ぇ覚ましてきなさいよ。せっかく来たんだから」 「……面倒ぃ」 「年寄りじゃあるまいし」 しっしっ、と有希は手の甲で追いやる仕草をする。 一瞬眉をしかめて何か言いたそうな顔になった水野だが、すっと有希の背後へ視線を逸らした。 「高井、どうかしたのか?」 有希が振り返る間もなく、パラソルの下へ勢いよく高井が走り込んできた。 「荷物番ならあたしたちがするから、まだいいわよ」 高井は、ちがうちがうと言うように首をふる。 「海水飲んじまって。辛いっつーか苦いっつーか」 「あー、それはお腹こわすかもね」 「嫌なこと言うなよ」 有希の茶化しに顔をしかめる高井に、 「思い出した。鼻に海水が入ったりすんのも痛いんだよな、海って」 と水野が言った。わかる、と頷きながら、高井は荷物から取り出した水を飲んでいる。
さて泳ぐか、とやる気のないセリフを口にして波打ち際に行きかけた水野が、何かを見つけた様子でぴたりと足を止めた。 「……なにやってんだ、あいつら」 「どうしたの?」 「シゲが風祭押し倒してる」 「おお、マジか」高井がすかさず顔を上げた。 水遊びに飽きたのか、みんないつの間にか砂浜へ上がっていて、風祭の体をシゲが押さえ、他のメンバーが砂をかけていた。どうやら埋めるつもりらしい。 喚声が有希たちの所まで聞こえてくる。とても楽しそうだ。はたから見れば、はしゃぎ過ぎて少し恥ずかしい。
どうして男共はこうなんだか。
「ったく、馬鹿よね」 ね、そう思わない麻衣子、と有希は隣に座る少女に問いかけたのだが、同じ光景を見ているはずの彼女は、曖昧に笑うだけで答えなかった。
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