夏の海2/// site top / text index / 16~



夏の海2


「そろそろ交代しようかな」
小島有希はそう呟き、波打ち際から砂浜へと歩きだした。荷物番をしている水野も、いいかげん退屈だろう。
軽く手をふると、有希に気付いたばかりの水野はやる気無く片手を挙げて答えた。

「私も行くわ」

背中にかけられた言葉にふり向く。
上條麻衣子が、額に張り付いた黒髪を指先で整えながら追いかけてきた。
「荷物番に行くんだけど、いいの?」
「ええ。ちょっと休みたいわ」
「もう疲れた?」
「日陰に入りたいの。日差しがきつくて」
有希と肩を並べて歩きだした麻衣子は、眩しいくらい肌が白い。
「軟弱な色しちゃって、麻衣子、屋根の下にばっかり居るんでしょ。たまにはサッカーしたらいいのに」
「高校に女子サッカー部って無いんですもの。しかたありませんわ」
「フットサルは?」
「一人で行って仲間に入れて貰うのは勇気が要るのよ、あなたと違って」
「そんなもんかしらね。あ、ちゃんと日焼け止め塗った? いきなり焼くと火傷するわよ」
「手の届くところはちゃんと塗ってるわ。有希こそ、日焼けに慣れてると思って油断すると火傷するわよ。砂浜の照り返しって凄いんだから」
「ほんと、眩しいわよね。眼ぇ開けてらんないもの」
有希と麻衣子はパラソルに近付いてゆく。

怠そうな表情をして、水野が立ち上がった。
「交代するわよ。待ちくたびれたでしょ」
「いや、久々にのんびりできた気がする。このまま昼寝したい位だ」
「泳いで目ぇ覚ましてきなさいよ。せっかく来たんだから」
「……面倒ぃ」
「年寄りじゃあるまいし」
しっしっ、と有希は手の甲で追いやる仕草をする。
一瞬眉をしかめて何か言いたそうな顔になった水野だが、すっと有希の背後へ視線を逸らした。
「高井、どうかしたのか?」
有希が振り返る間もなく、パラソルの下へ勢いよく高井が走り込んできた。
「荷物番ならあたしたちがするから、まだいいわよ」
高井は、ちがうちがうと言うように首をふる。
「海水飲んじまって。辛いっつーか苦いっつーか」
「あー、それはお腹こわすかもね」
「嫌なこと言うなよ」
有希の茶化しに顔をしかめる高井に、
「思い出した。鼻に海水が入ったりすんのも痛いんだよな、海って」
と水野が言った。わかる、と頷きながら、高井は荷物から取り出した水を飲んでいる。

 さて泳ぐか、とやる気のないセリフを口にして波打ち際に行きかけた水野が、何かを見つけた様子でぴたりと足を止めた。
「……なにやってんだ、あいつら」
「どうしたの?」
「シゲが風祭押し倒してる」
「おお、マジか」高井がすかさず顔を上げた。
水遊びに飽きたのか、みんないつの間にか砂浜へ上がっていて、風祭の体をシゲが押さえ、他のメンバーが砂をかけていた。どうやら埋めるつもりらしい。
喚声が有希たちの所まで聞こえてくる。とても楽しそうだ。はたから見れば、はしゃぎ過ぎて少し恥ずかしい。

どうして男共はこうなんだか。

「ったく、馬鹿よね」
ね、そう思わない麻衣子、と有希は隣に座る少女に問いかけたのだが、同じ光景を見ているはずの彼女は、曖昧に笑うだけで答えなかった。





← back

index

next →