海に行こうと言い出したのは誰だっただろう。 別に誰でも構わない、とにかく尻馬に乗った。彼女に会うために。 ……会うために?
夏の海 1
水野は、目の前に広がる青い海を見て、整った眉をいつものように眉間に寄せていた。 ドイツでの手術を無事終え、容態も安定した風祭が久々の里帰りを兼ねて一時帰国をするという話が、水野にもたらされたのは、7月のこと。 だったら、久しぶりに集まろう! となった桜上水OBの面々だったが、話は大きくふくらんで、どういう訳か、こうなった。 合い言葉は、『海で夏合宿!』 地元高校に進んだ高井・森長などをはじめとして、結局、桜上水サッカー部OB・OGほぼ全員が集まった格好になった。 コーチや先生がいない以外は、中学時代の合宿さながらの面子である。
合宿メンバーは、電車で行ける海水浴場へと揃って足を運び、待ちきれないとばかりに海辺に出た。 じりじりと熱い、真夏の日差し。 白い砂が光を弾いて、目を焦がす。
「なんでシゲがいるんだ?」 と、水野は小島を振り返った。水野が連絡した時には色よい返事を寄こさなかったくせに、当日集合してみれば、ちゃっかり参加している。 「知らない。誰かから漏れたんじゃない? 女子も来る事になったのがさ」と小島は風祭を振り返る。 風祭は僕からじゃない、とただふるふると首を振り、「でもシゲさんに会えてうれしいよ。良い天気になってよかったね」と続けて言って、足をかばいながら白い砂の上を進む。 砂浜は歩きづらく、膝を痛めて未だリハビリ中の彼には難所だ。どうして海になんかなったのか、主役である筈の彼が言い出したのだったか? と水野は考えたが、「うわ、海だ〜」と感激している当人に聞き出すのはやめた。
もう来てしまったのだから、どうでもいいこと。
普段はどっぷりサッカー漬けの毎日の水野である。高校1年にしてベンチ入り、更にアンダー代表ともなれば、こんな風に時間を割いて海に来る機会はなかなかない。楽しまなければ損だ。
「っぁー、なんか眠くなって来ねぇ? こう眩しいと逆に」 と伸びをしていると、「馬鹿言ってないでさっさとパラソル立ててよ、怠け者」と小島に急かされた。
「はいはい」水野は答え、参加メンバーを見渡して「まず俺が荷物見てるから、お前ら泳いでていいぞ」と宣言して知人から借りてきたパラソルの設置を始める。 当然のように小島がシートを取り出し、四隅にペットボトルなんかを置いて荷物置き場を作る。遠慮のない男どもはその上に乱雑に荷物を置いて、あっという間に服を脱いで海へと駆けだした。
残っているのは、風祭とシゲ、そして女子の面々。 「カザはどうするんや? 泳げるんか?」
「うん。浮き輪で浮かぶくらいなら大丈夫だって」
持参の浮き輪を叩いて見せる風祭に、 「おっしゃ。じゃぁ俺が引っ張ったるわ」 と言ってシゲはTシャツを脱ぎ始める。風祭も荷物を置き、泳ぐ準備を始めたようだ。
風祭を気遣って、シゲは急遽参加することにしたのかもな、と水野は思った。水野は未だに風祭のヒザの怪我に罪悪感を感じているし、それはシゲも同じかも知れない。
「どうする?ここで脱ぐ?」 小島が他の女子達に聞いている。ここではちょっと、と話す面々に、 「小島も行って着替えてこいよ。俺が見てるから」 とパラソルを立て終えた水野は、砂の付いた手のひらを叩きながら言ってやった。
男共とちがって、女子たちは砂浜で着替えるのは恥ずかしいだろう。水野もとりあえずシャツを脱ぎ、シートの空いたスペースに座った。白い砂が眩しい。眼が焼けそうだ。
じゃあ行ってくるからと、海の家へと向かう女子たちの背中を、波打ち際へ向かう足を止めたシゲが、真剣な顔で見つめていたのが、眩しい視界の中でやけに印象に残った。
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