サブリミナル/// site top / text index / 16~



麻衣子はそれを知らなかった。
でも予感はあったのかもしれない。



2.サブリミナル



放課後、の、練習後。
麻衣子は体育倉庫の前にいた。
錆の浮いた扉の重い取手を引こうと奮闘していると、後ろから伸びてきた手はあっけなくそれを開けてしまった。
「……来ると思っとらんかった」
と、背後に立つ彼は言った。
肩を押され、暗い室内へ一緒に入り込む。
「……散らかってるわね」
表彰台、審判台、体育の時間にしか使われることのない雑多な器具たち。
穴の空いた高飛びのマットだとか、折れたハードルだとか、壊れかけているものも多い。
振り返れば、なんだか妙な顔をした彼が突っ立っている。
麻衣子の様子を伺う視線。何かを確かめているようにも、迷っているようにも見える。
「……人気のないとこで男と二人きりになるなって、言われた事無い?」
「ないわ」
「知らない男についていくな、とかは」
「知らない大人に、ならよく言われるけど?」
「……ふうん。甘いんやな」
軽いため息の後、ギシギシ音をあげながら扉を閉めた。
外からの光が遮断されて、さらに暗くなった。
二人きりだからだろうか、それともただ単に部屋が暗いから?
彼の気配が、いつもの多弁な雰囲気と違うと思った。
なんとなく後ずさりをしていくと、古い跳び箱に背中がぶつかった。
彼は麻衣子にゆっくりと近付いてくる。
「わかったら、わかったって言い。そこで止めといたるから」
ぶつかる位近い距離まで詰め寄られる。
音もなく伸ばされた手に、スカートをめくられる、と一瞬思った。
それはやってはいけないことだ。小学校あたりでよくある悪戯。もちろん礼儀に反する。
そんな不作法なことはと、麻衣子は彼の手を防ごうとしたけれど、予想が外れた。
彼の手に、とても不穏当な場所に触れられて、慌てて麻衣子はシゲの両肩を押し返した。
どんな服を着ても、必ず隠されている部分。
男の子がそうであるように、見せてはいけない、簡単に触れられてはいけない場所だと麻衣子も知っている所。
「ちょっ、何、どういうこと?」
「今、教えたるから」
そう言って下着の生地の表面を撫でるように擦りはじめる。
頭が状況に追いつかない。簡単に逃げられる体勢でもない。いたずらに時間が過ぎる。

次第に、触られている感覚に、不思議な感覚が混ざってきた。
「あぁ、あ、あっ?」
足から力が抜けてきて、麻衣子はずるずると座り込む。
彼は、それも承知の上だったみたいで。
麻衣子の両膝を立たせると、自分の体を割り込ませて閉じられないようにした。
再開された刺激にのけぞった。
触れられている部分から体の中心に向かって、じわじわと染み込んでゆくような、黙って耐えることのできない感覚が生まれて登ってくる。
これは何なのだろう、でもきっとよくないものだ、してはいけない種類のものだ。
こんな風に、彼と、していいことじゃない。否、誰ともしていいことじゃない。
(どうしてそう判るんだろう。本能?)
頭の片隅で、なぜかそんなことを考えた。
「待って、佐藤!」
強く、彼の名前を呼ぶと、彼の体は離れていった。
彼の視線から隠すように膝を折って、触れられていた場所をかばった。
どうしてか、罪悪感に似た、後ろめたさでいっぱいになった。
「私に何をしたの?」
問うと彼は、どこか悲しそうに微笑んだ。
「そのうち嫌でもわかるようになるて」
知りたいなら今度また、と彼は独り言のように呟いた。



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